ワイナリー訪問 スロヴェニア

アドリア海にのぞむおしゃれなワイナリーVinaKoperヴィニャコペル

イタリアのトリエステから車でわずか20分で国境を超える。そこはもうスロヴェニア。内陸の国スロヴェニアがわずか40数キロだけ持つ海岸の町コペルにあるVinaKoperヴィニャコペルを訪れた。

コペルはアドリア海の最深部にあり、港には大型のコンテナ船がたくさん停泊していた。ここからアドリア海、地中海、そして世界へとつながっている。中欧の内陸部からの物資にとっては最重要な積出港だ。

一方、ワイン産地としても長い歴史と恵まれた自然条件で海を見晴らす斜面にたくさんのブドウ畑が広がっている。

 VinaKoperの創業は第2次大戦後の1957年。現在は600ヘクタール近い畑を持つスロヴェニアのリーディングワイナリーである。もっともこの地でのワイン造りは、ベニスの対岸に位置するだけに古代ローマからの歴史がある。

 文献に残る明確な年代としては1032?年、この地にあったベネディクト派の修道院の僧がワイン造りについて詳細に記している。

 が、その後の歴史は複雑だ。ベネチア共和国やオスマン帝国、ハプスブルグ帝国と周辺の強国の勢力下にあり、第2次大戦後はユーゴスラビア連邦の一員となるが、1991年に独立。現在でも人口200万人、国の端から端まで3時間もあれば届いてしまう小国が生き残るのはたやすいことではなかったはずだ。まして国境はすべてほかの国と陸続きで接している。唯一の海岸線がこのコペルからイストリア半島へと続くわずか40キロ。そんななかでスロヴェニアの独自性を保つことは難しかったと想像するが、醸造責任者のラシュアンさんは「国土は小さいが、僕たちのハートは、国を愛する気持ちはビッグなのさ」と熱く語った。

地場品種 マルヴァッジア・イストリアの魅力

ワイン造りも、国際品種も作ってはいるが、スロヴェニア独自のレフォシュコとマルヴァッジア(マルヴァッジアには亜種がたくさんあり、これはこの地方独自のマルヴァッジアイストリア)の地場のぶどうを使ったワインをフラッグシップとしている。

最初にテイスティングしたのはスパークリング。品種はシャルドネとピノノワールと言うシャンパン品種にマルヴァッジアが加わっている。やわらかなアプリコットやリンゴのような甘みとミネラル感、酸がしっかり下支えしていて前菜にはぴったりだ。マルヴァッジアがとてもいい仕事をしている。製法はシャルマ。

続いてロゼ。マルヴァッジア100%の白。それぞれ、前菜、トリュフをたっぷり乗せたラビオリのような地元のパスタ料理と合わせた。とくにマルヴァッジアの白は樽熟24ヶ月でボディがしっかりありつつも重たくなく、ミネラル感がたっぷりですばらしい。スパークリングの果実感の軽やかさとは異なる複雑さが現れていた。ちなみに、レストランはミシュラン掲載の名店である。

アドリア海を見晴らすブドウ畑

最後に畑も見せてもらった。この辺りは海からすぐに山がちの斜面になっている。そのあちこちがブドウ畑になっているのだが日照と海から吹き上げる風がブドウ栽培に好条件となっている。

スロヴェニアのワインについては全く未知数であったが、地ぶどうでありながら国際品種的な洗練された魅力があり、すぐにも受け入れられそうだ。アドリア海の見事なブルーの海を思い浮かべながら味わえばまた一段とおいしく思えるというものである。

ワイナリー訪問 クロアチア

クロアチアのアドリア海沿岸。世界遺産でいまや大人気のドブロブニクの北にディンガッチという産地がある。なにより斜面がきつい。海にころげおちそうな急斜面にブドウ畑が作られている。そのダイナミックな景観は、一見の価値あり。

トンネルを抜けると、アドリア海の青い海と空が待っていた
ディンガッチのブドウ畑は、海岸線まで転げ落ちそうな斜面
紺碧のアドリア海とブドウ畑の対比に見とれてしまう

自然派ワインの試飲会

近年、自然派とくくるワインが注目を集めている。自然派ワインの定義はかなりあいまいで、きちんと定義されたものでは農薬や添加物に規制のあるビオロジックというスタイルとそれに月の運行などを加味したビオディナミという作り方には明確な定義があり、EUでは認定機関があり、ワインにはその認証機関のマークをつけることも認められている。

思うにこういう細かい定義は一般の人には分かりにくく、とにかく自然のまま、みたいな感じが受け入れられやすいのかと思う。ヴァン・ナチュールと呼ばれるが、じつにあいまいなカテゴライズで、なんだか環境にやさしそう、体によさそう、という雰囲気だけで爆発的にひろまっている印象だ。

ありのまま、手を加えない、というのは耳障りのいい言葉だが、これらの自然派の特徴のもうひとつは、たいしたことのないワイン産地のワイン、というものだ。

本日のも、たとえば、ポルトパベーゼ。

イタリアといえば、まずはバローロ、バルバレスコを擁するピエモンテ、キャンティやブルネッロディモンタルチーノのあるトスカーナが代表的だろうか。ほかにも、ヴェネトやシチリアあたりがイタリアのDOC,DOCGの指定もこのあたりに集中している。

本日のワインたちはこれらのカテゴライズには当てはまらない。

評価していないのになぜ訪れたか、といえば、こういうワインをおいしいという人たちの反応を知りたかった、というのがある。実際、知らない産地ばかりだったし、インポーターさんもこれまでであったことのないところばかり。同じワイン業界でもそこには違う一派がある、そんな感じ。

さて、肝心の味だが、自然派、と名乗るワインの共通項はある。土壌の味わいが薄い。つまり複雑さがない。そうか、自然派がおいしい、という人たちはこういうシンプルな味がすぐれている、と考えているのだろうか。ブドウの樹齢も若いし、半分以上のワインはビオビオしていた。いわゆるビオ臭という臭い。これをおいしいという人たちが分からないけれど、わたしがひどいと思いながら試飲していた横で、なんてエレガントできれいな味わい、と感嘆の声を上げていた人たちがいた。

うーむ。

ワインを扱うことを商売としているのに、自然派が理解できない。というか、自然派を良しとする人の味覚が理解できない。自然派、つまりは無農薬、無添加で作っている生産者はブルゴーニュの有名どころにもたくさんいる。厳格なビオディナミを実践しているところも多い。が、最大の違いは、彼らが自然派をアピールしないことだ。あくまでも味わい、ワインの品質で勝負している。そして間違いなくおいしい。

ワインはこれまで、土壌や畑の場所、ブドウの品質で勝負してきた。が、本日の自然派の人々は畑を自慢できない。なぜならたいしたことがない場所だからだ。勝負する土俵が違うのである。うーむ、悩むなぁ。それでいて、大して安くないのがまた使いづらい点でもある。こんなにぱっとしない産地でいい値段を取るのだ。自然派、というだけで。納得できないけれど、すでにファンがたくさんいるわけで、プロとしてどうとらえるか、このまま無視していいのか、という課題を突き付けられた思いである。

感激! 海に落ち込む急斜面のぶどう畑 ディンガッチinクロアチア

 

下を見ると転げ落ちそうな恐怖があるほどの急斜面にブドウ畑が作られていた。

一歩踏み出せばそのまま海に転落しそうなほど。これがクロアチアの最高峰の赤ワインが生まれる畑である。

クロアチアのワイン産地のなかでも最も注目されているのがディンガッチという地区。と、言われたところで、クロアチアワインについての情報はまだまだ不十分だ。そんななか、初めて現地を訪れることができた。

それは、アドリア海の真珠と呼ばれ近年観光客が激増しているドブロブニクの北に連なるペリェシャッツ半島にある。

 

IMG_4919 ディンガッチのブドウ畑は、海岸線まで転げ落ちそうな斜面

 

一方、振り返れば、荒々しい岩の壁がそそり立っている。道などどこにもなく、山羊だけが唯一登れるといわれる、人を寄せ付けない厳しい風景だ。

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この急で荒々しい斜面が、クロアチアきっての赤ワイン品種、プラヴァツ・マリ(Plavac Mali)に適している。

クロアチアのワイン産地は大きく4つに分かれるが、アドリア海に面したダルマチア地方、なかでもペリェシャッツ半島の、そのなかでも、この傾斜地であるディンガッチが最高の区画であり、ブルゴーニュ的に言えばグランクリュの土地柄なのである。

アドリア海はどこまでも青く、波は穏やかで、遠くに近くにたくさんの島影が望める。ときどきフェリーやヨットが通り過ぎる。ぼんやりといつまでも眺めていられる風景を前に、ブドウの樹はたくましく育っている。仕立てはゴブレだが、背がせいぜい膝か腿あたりと低いのが特徴だ。冬はブラと呼ばれる風が強く、それに耐えるためだ。印象としてはコートロティあたりの急斜面だが、背後の岩山が印象的。日本なら屏風岩とでも呼べそうな岩山で、これが海岸線の斜面を孤立させていた。が、トンネルが掘られ、いっきに岩山の境界を越えて、内陸と海岸線が近くなった。もっとも内陸と呼ぶにはあまりに距離が近い。両者は直線距離にすればわずか400mなのだ。

トンネルを抜けると、アドリア海の青い海と空が待っていた
トンネルを抜けると、アドリア海の青い海と空が待っていた

が、この岩山の影響は大きく、日本においてアルプスが日本海側と太平洋の気候をへだてているように、ここでは400mの距離でクリマが異なる。海側は地中海性気候であり、内側は大陸性気候、というわけだ。

実際、内側ではちょうどブドウの開花が終わった状況であったが、これが海側の畑を見るとすでに実ができている。2,3週間の差が生まれているのだ。

テイスティングにおいても、明確に違いは現れていて、内側はフルーティでやわらかい、別の言い方をすれば軽くて飲みやすいワインができあがる。これに対してディンガッチの斜面からは凝縮感のある果実としっかりしたタンニンが得られ、樽熟成をしたものでは長期熟成も可能になる。