<番外編>Grab さまさま。

 

わたしは外国でタクシーに乗るのがあまり好きじゃない。とくにアジア圏は、交渉制のタクシーが多い。ふっかけてくる相手に適正と思われる価格まで交渉するのに疲れるし、どこか発展途上国の裕福じゃなさそうな人を相手に、いじめているような気分にもなる。

メーターがあっても倒さないケースが多いので、それを指摘しないといけないという攻防もある。

たとえ、メーターを使ったとしても、今度は、遠回りするんじゃないか(実際そういったことは多数)、渋滞にはまってどんどんメーターがあがる、などと気にするのがストレスなのだ。

 

昨年、マレーシアのボルネオ島側の都市、コタキナバルを訪れたとき、やはり空港でSIMを買ったところ、Grabのアプリを勧められた。未知のアプリだったが言われるがままにインストールしてもらい、さらに使い方も伝授してもらった。

ちなみに、こちらもスカーフでびっちり頭を覆ったイスラムの若い女性だった。宗教の制約を受けて不便そうに思うけれど、スマホを自由自在に操っている。イスラム教徒というだけでひとくくりで語ってはいけないと、しみじみ思う。

 

さて、Grabというのは、簡単に言うとUberの東南アジア版で、現行、マレーシアやインドネシアなどでは両方のシステムが使えるそうだが、Uberがクレジットカード登録するのに対し、こちらは現金払い。また、出発地点と到着地点をインプットすると料金が現れ、それで確定するので、遠回りしようがどうしようが最初の料金のままなので、精神衛生上たいへんよろしい。

しかも、安い。

例えば、コタキナバルの空港から市内までは、空港タクシーが固定料金で30リンギットだが、Grabだと10リンギットだった。1回でSIMカード分がペイする。

コタキナバルは、日差しが強いうえに交通渋滞が激しく排気ガスでむせかえるようであり、さらに歩道も整備されていない。そぞろ歩きが楽しい街ではなかった。歩行者にはやさしくないのだ。そこで、空港で入れてもらったアプリGrabが大活躍した。もう、毎日フル活用。

今回のバリでまだ、2カ国目だけれど、顔写真があること、乗車後に客が運転手の評価をするので、態度はおしなべて好感がもてる。そもそもアジア圏で自家用車を持っているのは中流以上だろうから、英語が話せる人が多いし、クルマのグレードも悪くない。

これまではタクシーとの交渉を思ってためらって歩いていたところも、さまざまなストレスから解放されるので滞在中は実に頻繁に活用させていただいた。帰りのタクシーが呼べるのかと不安な場所も安心して行ける。旅のスタイルがこれによってがらりと変わったのだ。

ただし業界からは反発があり、バリ島では、例えば空港やホテルで、Grabの車は敷地内に入ることができない。タクシーで生計を立てている人たちにすれば死活問題だというのはよく理解できる。パリでも3年前にUberに反対するタクシー業界のデモがあり、シャルルドゴール空港がタクシーの列で封鎖され、友人の乗る飛行機が飛ばなかったという記憶がある。

 

とはいえ、やっぱり便利でストレスフルなのは代えがたい。

まさに、グラブさまさま、なのである。