クロアチアのアドリア海沿岸。世界遺産でいまや大人気のドブロブニクの北にディンガッチという産地がある。なにより斜面がきつい。海にころげおちそうな急斜面にブドウ畑が作られている。そのダイナミックな景観は、一見の価値あり。




シャンパーニュの小さな作り手から届きました。ティエリー・レンヌから立ち上る泡は至福のひと時を…
近年、自然派とくくるワインが注目を集めている。自然派ワインの定義はかなりあいまいで、きちんと定義されたものでは農薬や添加物に規制のあるビオロジックというスタイルとそれに月の運行などを加味したビオディナミという作り方には明確な定義があり、EUでは認定機関があり、ワインにはその認証機関のマークをつけることも認められている。
思うにこういう細かい定義は一般の人には分かりにくく、とにかく自然のまま、みたいな感じが受け入れられやすいのかと思う。ヴァン・ナチュールと呼ばれるが、じつにあいまいなカテゴライズで、なんだか環境にやさしそう、体によさそう、という雰囲気だけで爆発的にひろまっている印象だ。
ありのまま、手を加えない、というのは耳障りのいい言葉だが、これらの自然派の特徴のもうひとつは、たいしたことのないワイン産地のワイン、というものだ。
本日のも、たとえば、ポルトパベーゼ。
イタリアといえば、まずはバローロ、バルバレスコを擁するピエモンテ、キャンティやブルネッロディモンタルチーノのあるトスカーナが代表的だろうか。ほかにも、ヴェネトやシチリアあたりがイタリアのDOC,DOCGの指定もこのあたりに集中している。
本日のワインたちはこれらのカテゴライズには当てはまらない。
評価していないのになぜ訪れたか、といえば、こういうワインをおいしいという人たちの反応を知りたかった、というのがある。実際、知らない産地ばかりだったし、インポーターさんもこれまでであったことのないところばかり。同じワイン業界でもそこには違う一派がある、そんな感じ。
さて、肝心の味だが、自然派、と名乗るワインの共通項はある。土壌の味わいが薄い。つまり複雑さがない。そうか、自然派がおいしい、という人たちはこういうシンプルな味がすぐれている、と考えているのだろうか。ブドウの樹齢も若いし、半分以上のワインはビオビオしていた。いわゆるビオ臭という臭い。これをおいしいという人たちが分からないけれど、わたしがひどいと思いながら試飲していた横で、なんてエレガントできれいな味わい、と感嘆の声を上げていた人たちがいた。
うーむ。
ワインを扱うことを商売としているのに、自然派が理解できない。というか、自然派を良しとする人の味覚が理解できない。自然派、つまりは無農薬、無添加で作っている生産者はブルゴーニュの有名どころにもたくさんいる。厳格なビオディナミを実践しているところも多い。が、最大の違いは、彼らが自然派をアピールしないことだ。あくまでも味わい、ワインの品質で勝負している。そして間違いなくおいしい。
ワインはこれまで、土壌や畑の場所、ブドウの品質で勝負してきた。が、本日の自然派の人々は畑を自慢できない。なぜならたいしたことがない場所だからだ。勝負する土俵が違うのである。うーむ、悩むなぁ。それでいて、大して安くないのがまた使いづらい点でもある。こんなにぱっとしない産地でいい値段を取るのだ。自然派、というだけで。納得できないけれど、すでにファンがたくさんいるわけで、プロとしてどうとらえるか、このまま無視していいのか、という課題を突き付けられた思いである。
イタリアには地場品種が多いことは知っていたが、ティモラッソという品種は初耳だった。なんでも栽培が難しく消滅しそうになっていたのが近年復活した。ポテンシャルが高く、「白のバローロ」と呼ばれるほどの高級ワインとなる。
今回の旅では、ピエモンテを訪れたのだが、、といっても、以前バローロやバルバレスコは巡ったので、ガヴィとアスティを訪れることにしたのだ。個人的にはさほど期待はしていない地域だった。知名度は高いが、どちらもそれほど質の高いワインを作る産地ではないからだ。
しかし、発見はどこにでもある。
アルタランガというのも初耳。シャンパンに詳しいことを自負していたが、まだまだだ。2011年にDOCG認定された。瓶内2次発酵させるメソッドトラディショナルで、なんと瓶熟30か月以上を規定としている。シャンパーニュが15か月、フランチャコルタが18か月だから、いかに長いか。ま、そういうふうにしないと後発の無名のスパークリングとしては対抗しづらいものね。
アスティスプマンテで知られる地域が中心で、その名門コントラット社をスピネッリがオーナーとなり新たに仕掛けたワインというわけだ。スプマンテの会社が集まるもコネッリには、もともと地下に広大な熟成セラーがあり、世界遺産になっているほど。したがって、30か月、いや2年3年熟成させる環境には事欠かない。
レストランでグラスで頼んでみたが、泡がきめ細かくきれいに立ち上り、ちゃんとしたシャンパーニュと同じ(ちゃんとしてないシャンパーニュもたくさんありこれはいくらシャンパーニュと名乗っていてもだめ)に目でも楽しめた。味わいはシャンパーニュと比べると果実感とアロマが強く感じられる。品種はシャルドネとピノネロ、つまりシャンパーニュと同じなのだが、どうもイタリア的なニュアンスがある。このボトルの詳しいデータが分からないので戻ったら改めて試してみようと思う。
石畳の細い路地をぎりぎりにトラクターがぶどうを山盛りにして通り抜けていく。あー、ヴァンダンジュ(イタリア語ならヴァンデミア)が始まったのだ、と気持ちが昂る。別に生産者でもないのに、ワイン好きの人間としては特別な季節なのである。
ピレネー山脈を越えるとヨーロッパではない、と言われている。フランスとスペインの国境線を1度目は大西洋側のサンジャンドリュズからサンセバスチャンへ、 2度目は地中海側のフィゲラスからペルピニャンというルートで越えたことがある。今回は、その中間、ピレネーの山中を山越えするルートをとった。
フランスのポーからスペインのカンフランへ。ローカル線とローカルバスを乗り継ぐ超がつくマイナーなルートで、きちんと乗り継げるのは一日1便のみ。そして、その1便の電車がフランスの国鉄SNCFの突然のストで欠航となった。
ここからはアドレナリンが1か月分噴出するくらいパニックが続くのだが、奇跡的にBedousという村にたどり着き、乗り継ぎのバスに無事乗ることができた。
乗客はわたしひとり。「僕はバスク人(フランス人じゃなくて)」という運転手さんとふたりきりでのんびりと山越えの道を走る。/
車窓の風景は圧倒される迫力でくぎ付けだ。
やがてEspanolの標識が現れ、あっさり国境越え。そして、カンフランクエスタシオンに到着した。
ここが今回の旅の最初のハイライトである。
1929年、ピレネーの山にトンネルを掘り、フランス~スペインを結ぶ路線が開通した。同時に、スペイン側のカンフランに巨大な駅舎が作られた。第2次大戦中はナチスの管理下におかれ、金の密輸にも使われたという。そういえば、そんなスパイ小説を読んだことがある。あれがこのルートだったのか。
戦後は廃線となり、巨大な駅舎は廃墟となり、山のタイタニック、と呼ばれた。
それがホテルへと生まれ変わったのが2022年。外観はほぼ当時のままだ。
フランスへ抜けるトンネルはいまも残っているが、フェンスでふさがれている。そもそもがこんな山の中にこれほどの規模の駅舎を作る必然がよくわからないが、開通式にはスペイン国王とフランス大統領が臨席したというから、国を挙げての大事業だったのだろう。
それにしても美しいホテルだ。不自然な長さと岩山しかない山中にある様は異様ともいえるが、それだけに魅力的だ。たくさんの歴史の舞台となったこの建物での一夜は、いろいろな夢を見た。
Wikipediaでは、ピレネーの麓にある山岳リゾートであり、巡礼ルートにある宿場町でもあるとのこと。ならば、妻籠宿のようなイメージを勝手に思っていたが、それよりはるかに開けた、旧市街の周りはモダンなアパートが並ぶ地方都市であった。
しかしながら、旧市街の中は中世の趣そのまま。細い石畳の路地を思うままに彷徨い、小さなバルを見つけてはワインをいっぱい。崩れかけた教会ものぞいてみる。旧市街にとったホテルはいかにもスペインの安宿といったたたずまいだが、掃除は行き届き清潔で快適。両開きの窓を開ければ、赤瓦の屋根と教会の尖塔が見える。時報替わりの鐘が鳴なり、ハトがクウクウ鳴いている。
多分、スルーしてもいい街かもしれない。でもわたしは好きだ。次のパンプローナへのバスが早朝に1日1便しかないので、2泊してしまったが、だから1日で街の観光としては十分なのだが、でも気持ちが落ち着く。いい街だと思う。巡礼ルートなので巡礼の人もいるのだろうが、それよりは周辺のトレッキングを楽しむ、ストックを持っている人が目立つ。街には登山具を扱う店も多い。
交通の要衝にあり、それゆえ戦場となることも多かった。函館の五稜郭と同じ星型の要塞が今も残っている。こちらは15世紀のものだ。ほとんどは復元されたものだが、まだ当時の石積みも残っている。城壁の上に立てばピレネーの山塊がまじかに望める。空気はきりりと澄み渡り気持ちいい。
帰るときに窓口の女性に、函館の五稜郭の写真を見せた。スペインのハカと日本の函館。距離も時代も隔たってはいるが、なにかが通じ合えた一瞬であった。
機内で映画を見た。
スペイン映画で、主人公の一人がワイナリー所有者という設定だ。ストーリーとは直接関係ないのだが、このワイナリーオーナーが学校でワインの特別講義をするというシーンがあった。
黒板の前で生徒に問いかける。ブドウの房を目の前で絞りグラスに入れる。方やワイングラスに注がれた赤ワインが用意されている。
「この二つの違いは何だと思うか?」
そして、答える。
それは「時間」だ、と。
「時間がワインに個性を与えるのだ、魅力を与えるのだ」と熱を込めて語った。
なんという偶然か、実は前日に、リオハワインのセミナーがあった。リオハはスペインのトップの産地だが、原産地呼称の区分がスペインで最初に認定されたにも関わらず、ただリオハという広大な地域がひとくくりで語られるだけだ。フランスのAOCのように産地を細分化して作ったヒエラルキーはない。
その代りに時間軸が存在する。
「クリアンサ」「レゼルバ」「グランレゼルバ」
同じリオハという産地のワインでも、それぞれ、樽での熟成期間と瓶内での熟成期間について細かい規定が定められているのだ。当然、グランレゼルバがもっとも高級で偉大なワインとされ、合計60ヶ月5年もの熟成が必要であると決められている。
“フランスワイン育ち”のわたくしとしては、やはり“初めに産地ありき”、なので、熟成期間はヴィンテージを意識するだけで、それを最優先には考えていない。もし、この映画の舞台をフランスに置き換えたとしたら、先生は土や石ころを握りしめて、これがワインの個性を作る、と熱く語るに違いない。
フランスが土壌や気候、文化、すなわちテロワールを最も大切に考えているとしたら、スペインは熟成期間に重きをおいている。いわば時間至上主義というお国柄なのだ。
ただ、やはりそれだけでは昨今の世界のマーケットに勝てないと考えたようで、前日のリオハのセミナーの眼目は、「新しく単一畑の表記を採用することにした」である。
地区名→村名→シングルヴィンヤードという、産地におけるヒエラルキーをリオハ地域のなかに作ることにしたのだ。2019年に制定されたできたてほやほやの制度。生産者たちも畑違いでのワインを作り始めたようだし、注目ではある。
このところ、たて続けに2本、ブショネに当たった。
ブショネが現れる確率は1%とか5%とか言われてるから、なかなかに大当たりだ。
ところでそのワインはどうすればいいのか。コルクを抜いてチェックしてすぐに判明したわけだから、ほぼまるまる1本残っている。お気に入りの、あまり安くはないワインをどぼどぼと流しに捨てるのも抵抗がある。かといって、がまんして飲めるほど匂いに鈍感でもない。
そこで調べたら、匂いを取る方法、というのがあるという。
方法は、実に簡単。ワインの中にサランラップを入れる。ポリ袋(スーパーで水気のものを入れるペラペラの半透明の袋)にワインを注ぐ、など。
ブショネの匂いは、TCA(トリクロロアニソール)という化学物質が原因で、これがポリエチレンと結合しやすい性格を持っており、匂いが消える、というものだそうだ。
へぇ~。
ブショネの匂いはどれだけぐるぐるしても、時間をおいても消えないから、絶対なくならないものだと思っていた。
半信半疑でやってみた。
と・・・。
ほんとに匂いが消えた。ひぇ~。
これで捨てるはずのワインが蘇った!!!
で、飲んでみたら・・・。
匂いは消えていたが、味わいはだめだった。そもそもブショネになったワインは匂いだけでなく、味にも変化を与えている。さすがにそこまでは復活しなかった。ただ、今回は、ブショネ発覚からしばらくほったらかしていたから、その間の劣化かもしれないという可能性が残る。
今度、ブショネにあたった間髪をいれずこの技をつかってみることとしよう。もっとも待ってるとなかなか当たらないもんだけどね。
ニューワールドワインというと、日照に恵まれてしっかり熟したブドウから造られるアルコール度数が高く、果実感たっぷりのワイン(さらに新樽をばっちり効かせた)がお手の物だったはず。
が、南アフリカのワインについて行われたセミナーで取り上げられたのは、「クール&エレガンス」。
試飲するワインは、シャルドネとピノノワールに特化していた。まさにブルゴーニュではないか。
ワインを勉強した人ならわかるが、南アフリカのワインと言えば、赤はピノタージュ、白はシュナンブラン、と学ぶ。なのに、完全にブルゴーニュ品種だ。
いまや世界的な傾向として“冷涼ワイン”がブームなのである。カリフォルニアも、オーストラリアも、いまやいかに自分のところのワイン産地が冷涼な気候なのかを競っている。新ダル比率はどんどん落ち、かつて新だる200%なんていうワインが注目されたパーカー全盛期に比べるとなんという変わりようだろうか。
いまや世界中がピノノワールを造りたがっている。目指すはブルゴーニュ。
これもある意味グローバリゼーションの行きつくところなのだろう。