イルミネーションに輝くシャンパーニュ大通り ー 光の祭典

シャンパンは、12月ひと月で、年間の半分を売り上げるといわれている。フランス人にとってもやはりシャンパンは特別なお酒で、何よりノエル(クリスマス)には絶対欠かせない存在なのである。
そんなクリスマスを前に、シャンパーニュの中心地エペルネで、ある祭りが開かれる。
Habits de Lumie`reといい、光の祭典とでも訳せるだろうか。
12月の中旬に3日間行われるのだが、わたしはその初日の夜に訪れたことがある。

会場は、シャンパーニュの都と呼ばれるエペルネの、その名もシャンパーニュ大通り。だれもが知ってるモエテシャンドンを皮切りに、ペリエジュエ、ドヴノージュ、カスティリレンヌなどグランメゾンの建物が並んでいる。まさに貴族の館と呼ぶにふさわしいたたずまいで、シャンパンがいかに多くの富を生んだか、その象徴の通りでもある。
夕方、すでに暗くなった通りに向かうと、気球が目についた。シャンパンのコルク型をした熱気球が浮かぼうとしている。これはモエテシャンドンの広告。相変わらず「うまいなぁ」と思う。後発のワインであったシャンパンはさまざまなアイデアで宣伝をしてきた。現在でも、ボトルの半分は広告費?と揶揄されるほど、いまも広告宣伝の手をゆるめることはない。

巨大なシャンパンのコルクにびっくり!
巨大なシャンパンのコルクにびっくり!

日ごろは、扉を閉ざしているところが多いが、この日だけは、すべてオープン。また、扉や建物にイルミネーションが飾られ、一層の華やかさを増している。そして、メゾンのシャンパンが飲めるバーが設けられている。

しかし、だ。
たしかに、日ごろは通りから指をくわえて眺めているだけのメゾンの敷地に入ることができ、シャンパンも味わえるのは魅力だが、考えても見てほしい。
12月だ。
夜だ。
ワインの北限といわれるシャンパーニュ地方だ。
気温は軽く0度を下回っている。この環境でシャンパンを飲むのは、たとえテントで少し冷気が遮られているとはいえ、なんだか、盛り上がらないなぁ・・・。

イルミネーションでいちだんと華やぐシャンパーニュ大通り
イルミネーションでいちだんと華やぐシャンパーニュ大通り

と思っていたが、実はわたしは特別なインヴィテーションパスを用意してもらっていた。持つべきものは関係者の友人だ。そして、それがあると建物の敷地内、ではなく、建物の中に入ることができる。もちろん一般の人は不可で、入り口でチェックがある。

すると。

なかには、ドレスアップした紳士淑女が優雅にシャンパングラスを傾け・・・と想像していたら、予想外に田舎のおじさんおばさんという人たちであふれていた。
彼らはだれなのか。

ブドウ栽培農家の人たちなのである。

恒常的にぶどうの品不足にあるグランメゾンにとって、ぶどうを供給してくれる生産者の人たちは何より大切にしたい取引先なのである。
シャンパンの生産量は年々増加しているが、畑の面積と収穫量は法律で厳格に定められているので増えようがない。良質の畑、良質のぶどうを作れる生産者はもっと限定されている。メゾンにとってブドウの確保は最重要課題なのだ。
かつては、大地主(グランメゾン)が小作人(ブドウ農家)から搾取するといった構図があり、暴動が起きたほどだったがいまやその関係は大きく変貌している。

モエ・エ・シャンドン、ポールロジェ、ボワゼル、ドゥヴノージュ・・・
凍りつく戸外でもなお楽しそうにシャンパンを愉しんでいる人たちには申し訳ないが、わたしは、ぬくぬくとした室内で、貴族の館らしい優雅な家具調度に囲まれ、普段は会うことも難しいメゾンの当主や醸造責任者からもてなしを受け、思う存分シャンパンを味わった。

冬のシャンパーニュを盛り上げるお祭りは、実は関係者に対する接待企画でもあったのである。

いい思いして、ごめんね。
でも、楽しかったぁ。

見事な秋晴れ。気持ちも弾むヴァンダンジュ
En Champagne, il est beau temps tous les jours.

絵に描いたような青い空と白い雲。シャンパーニュは今日もいい天気!
絵に描いたような青い空と白い雲。シャンパーニュは今日もいい天気!

9月に入ってからのシャンパーニュは、うっとりするほどの好天が続いている。朝は冷え込むのだが、そういう日というのは晴れを約束されていて、太陽が昇るにつれぐんぐん気温が上昇する。
空はまさに抜けるような青空で、ぽっかりと白い雲が浮かぶ。見渡す限りのブドウ畑は、緑のじゅうたんを広げたようだ。
湿度が低いから風は爽やかで、ぼんやりと風景を眺めているだけで飽きることがない。

過去2年のフランスは不順な気候で収穫量も少なかったのだが、今年はぶどうが大きく実り、糖度もたっぷり。摘み取ったぶどうを入れるケースがあっという間に満杯になる。
これをすぐにプレスして果汁にするのだが、その仕事をするプレソワーは大量のブドウを前に大忙しだ。

 

艶々と輝くぶどうたち。太陽を浴びて糖度もたっぷりだ。
艶々と輝くぶどうたち。太陽を浴びて糖度もたっぷりだ。

シャンパーニュ・ティエリー・レンヌでは、33人の働き手を雇い、15日から収穫を始めた。
作業は順調で、友人やいとこたちも休暇を取って助っ人に来た。働き手の中にも、毎年やってくる人たちもいる。なかには25年前からとか、親子2世代に渡って、という人も。
朝、昼、晩と大勢で食事をして、わいわいがやがや。

田舎のないわたしには経験がないが、お盆やお祭りのときみたいな気がする。忙しいけれど、みんなどことなくうれしそうなのだ。
そんな雰囲気のおすそ分けに預かって、わたしもヴァンダンジュを楽しんでいる。

ティエリー・レンヌのヴァンダンジュ 2014

今年の夏は寒かった、と誰に会っても言う。7月、8月ともにほとんど毎日のように雨が降り、最低気温が1度(真夏にだ)を記録した日もあった。暖炉に火をくべた、という話も聞いた。もちろんブドウにはあまりよろしくない。

ところが、9月に入り、一転。夏のような日差しが照り付ける日が続いたのだ。
ここで、ちょっと自己PRをすると、わたしはものすごい晴れ女で、今回もちょうど8月末に日本を出発。事前に調べたらあまりに寒そうなので暖かい服をいっぱい持ってきたのにタンクトップとゴムゾウリでよかった。
以後、ただただ好天の毎日。晴れ女の実績がまた増えた。

ヴァンダンジュ直前のシャンパーニュ。嵐の前の静けさ、だ。
ヴァンダンジュ直前のシャンパーニュ。嵐の前の静けさ、だ。

さて、ヴァンダンジュの日程は、公式に決められる。300近い村のそれぞれで、シャンパーニュを作るのに認められている3種類のブドウ、すなわちシャルドネ、ピノノワール、ピノムニエそれぞれの日時が指定されるのである。
生産者は、これより早く始めてはいけないが、遅くするのは構わない。

シャンパーニュ・ティエリー・レンヌのあるヴァレドラマルヌ地区では、ピノムニエが9月12日より、ピノノワールが9月15日、シャルドネが9月17日からと決まった。そして、レンヌ家では、9月15日月曜をスタートすることに決定したのである。

こんなミニサイズの絞り器でブドウ果汁を絞り、糖度や酸度をチェックする
こんなミニサイズの絞り器でブドウ果汁を絞り、糖度や酸度をチェックする

9月に入ってからの晴天で1週間で糖度が2度も上がったそうだ。あと1週間、この後の天候も晴れが続くと予報されており、さらによく熟したブドウになるはずだ。 8月の寒さのことなどみんな忘れてしまったようで、楽しみなミレジムになるとだれもが顔をほころばせている。