石畳の細い路地をぎりぎりにトラクターがぶどうを山盛りにして通り抜けていく。あー、ヴァンダンジュ(イタリア語ならヴァンデミア)が始まったのだ、と気持ちが昂る。別に生産者でもないのに、ワイン好きの人間としては特別な季節なのである。
Yuki’s Journal ゆきは考えた・・・
スペインのワインは時間優先主義?
機内で映画を見た。
スペイン映画で、主人公の一人がワイナリー所有者という設定だ。ストーリーとは直接関係ないのだが、このワイナリーオーナーが学校でワインの特別講義をするというシーンがあった。
黒板の前で生徒に問いかける。ブドウの房を目の前で絞りグラスに入れる。方やワイングラスに注がれた赤ワインが用意されている。
「この二つの違いは何だと思うか?」
そして、答える。
それは「時間」だ、と。
「時間がワインに個性を与えるのだ、魅力を与えるのだ」と熱を込めて語った。
なんという偶然か、実は前日に、リオハワインのセミナーがあった。リオハはスペインのトップの産地だが、原産地呼称の区分がスペインで最初に認定されたにも関わらず、ただリオハという広大な地域がひとくくりで語られるだけだ。フランスのAOCのように産地を細分化して作ったヒエラルキーはない。
その代りに時間軸が存在する。
「クリアンサ」「レゼルバ」「グランレゼルバ」
同じリオハという産地のワインでも、それぞれ、樽での熟成期間と瓶内での熟成期間について細かい規定が定められているのだ。当然、グランレゼルバがもっとも高級で偉大なワインとされ、合計60ヶ月5年もの熟成が必要であると決められている。
“フランスワイン育ち”のわたくしとしては、やはり“初めに産地ありき”、なので、熟成期間はヴィンテージを意識するだけで、それを最優先には考えていない。もし、この映画の舞台をフランスに置き換えたとしたら、先生は土や石ころを握りしめて、これがワインの個性を作る、と熱く語るに違いない。
フランスが土壌や気候、文化、すなわちテロワールを最も大切に考えているとしたら、スペインは熟成期間に重きをおいている。いわば時間至上主義というお国柄なのだ。
ただ、やはりそれだけでは昨今の世界のマーケットに勝てないと考えたようで、前日のリオハのセミナーの眼目は、「新しく単一畑の表記を採用することにした」である。
地区名→村名→シングルヴィンヤードという、産地におけるヒエラルキーをリオハ地域のなかに作ることにしたのだ。2019年に制定されたできたてほやほやの制度。生産者たちも畑違いでのワインを作り始めたようだし、注目ではある。
ブショネのワインの匂いが消える?
このところ、たて続けに2本、ブショネに当たった。
ブショネが現れる確率は1%とか5%とか言われてるから、なかなかに大当たりだ。
ところでそのワインはどうすればいいのか。コルクを抜いてチェックしてすぐに判明したわけだから、ほぼまるまる1本残っている。お気に入りの、あまり安くはないワインをどぼどぼと流しに捨てるのも抵抗がある。かといって、がまんして飲めるほど匂いに鈍感でもない。
そこで調べたら、匂いを取る方法、というのがあるという。
方法は、実に簡単。ワインの中にサランラップを入れる。ポリ袋(スーパーで水気のものを入れるペラペラの半透明の袋)にワインを注ぐ、など。
ブショネの匂いは、TCA(トリクロロアニソール)という化学物質が原因で、これがポリエチレンと結合しやすい性格を持っており、匂いが消える、というものだそうだ。
へぇ~。
ブショネの匂いはどれだけぐるぐるしても、時間をおいても消えないから、絶対なくならないものだと思っていた。
半信半疑でやってみた。
と・・・。
ほんとに匂いが消えた。ひぇ~。
これで捨てるはずのワインが蘇った!!!
で、飲んでみたら・・・。
匂いは消えていたが、味わいはだめだった。そもそもブショネになったワインは匂いだけでなく、味にも変化を与えている。さすがにそこまでは復活しなかった。ただ、今回は、ブショネ発覚からしばらくほったらかしていたから、その間の劣化かもしれないという可能性が残る。
今度、ブショネにあたった間髪をいれずこの技をつかってみることとしよう。もっとも待ってるとなかなか当たらないもんだけどね。
南アフリカのワインも冷涼狙い
ニューワールドワインというと、日照に恵まれてしっかり熟したブドウから造られるアルコール度数が高く、果実感たっぷりのワイン(さらに新樽をばっちり効かせた)がお手の物だったはず。
が、南アフリカのワインについて行われたセミナーで取り上げられたのは、「クール&エレガンス」。
試飲するワインは、シャルドネとピノノワールに特化していた。まさにブルゴーニュではないか。
ワインを勉強した人ならわかるが、南アフリカのワインと言えば、赤はピノタージュ、白はシュナンブラン、と学ぶ。なのに、完全にブルゴーニュ品種だ。
いまや世界的な傾向として“冷涼ワイン”がブームなのである。カリフォルニアも、オーストラリアも、いまやいかに自分のところのワイン産地が冷涼な気候なのかを競っている。新ダル比率はどんどん落ち、かつて新だる200%なんていうワインが注目されたパーカー全盛期に比べるとなんという変わりようだろうか。
いまや世界中がピノノワールを造りたがっている。目指すはブルゴーニュ。
これもある意味グローバリゼーションの行きつくところなのだろう。
クロアチアから生産者が来日
グルナッシュとガルナッチャ
グルナッシュ種に特化したセミナーがあった。講師の方はフランス人だが「わたしの英語はカタラン訛りで・・・」とおっしゃる。フランス訛りとは言わない。
彼はフランス南西部ルーション地方の人だが、そうか、この地はもうスペインと国境を接している地域なのだ。
ブドウ品種の歴史をたどれば、アラゴン王国に遡る。そうかそうか、いまでこそフランスとスペインが国境をへだてているが、かつてはカタラン、スペイン語ならカタルーニャ地方として一体だったところだ。バルセロナではカタルーニャとして独立しようという機運が盛んだけれど、ブドウ品種としてはすでに一体化しているのだ。ただし、フランスではグルナッシュ、スペインではガルナッチャと呼ぶ。
クヴェブリのワイン
ジョージア(旧グルジア)はいま現在世界最古のワイン産地として認定されている。その起源は8000年前にさかのぼる。歴史好きの私としてはそれだけで心惹かれる。
さらに、クヴェブリという、人がすっぽり入ってしまうような巨大な甕を地中に埋め、ブドウを放り込んで発酵熟成させるという古代製法がいまもなお続けられており、世界遺産にも登録された。独特の地域文化が大好きなわたしとしてはますますジョージアワインに関心が強くなる。
そんなジョージアワインばかりを集めた試飲会に足を運んだ。集まったのは10数社のインポーター。クヴェブリ製法で作られたワインに絞り込んで試飲していった。
ところが・・・・。
あれぇ、以前飲んだ印象では白ワインながらタンニンがあり、骨格もしっかりしていてジョージアワインって思ってたよりレベル高い、と感じていたので、楽しみにしていたのだが。
確かに色はオレンジがかっているが、水っぽかったり、酸化してたり、雑菌が混じったような雑味が感じられたり、これはワインとして売っちゃいかんだろう、というレベルのものまで。
どうやら、クヴェブリといっても「ステンレス発酵、クヴェブリで6か月熟成」などというちょっとだけクヴェブリという使ってます、というものも同様のワインとしてくくられているようだ。
そもそもは「古代より続く伝統的製法」であるはずが、「新樽30%、フレンチオークとアメリカンオークを半々」というような樽をどの程度使うかという醸造テクニックとしてのジャンルになってきているのだ。クヴェブリは容器の名称でもあり、製法でもあり、その辺りの用語の用法が明確になっていないのが問題か。
以前、現地の生産者に聞いたところでは、たいへん面倒な作り方なので、ジョージア全体でもクヴェブリで造られたワインは全体の1割程度だそうだ。とするなら、日本でこれほど多数紹介されているワインはいったい・・・。
この辺りで、きちんと規定を明確にしておかないと、世界最古という栄誉に傷がつくのでは。少々がっかりの試飲会であった。